2012年4月12日木曜日

ペライア 【ショパン:練習曲集・作品10&25】




収録曲
ショパン:練習曲集・作品10&25


 今回はペライアのショパン・練習曲集を取り上げます。ちなみに、練習曲集に加えてショパン・即興曲集も併録した盤もあって実は私の手持ちもソレなんですが、諸般の事情により練習曲集のみを取り上げます(未確認ですが、上に添付したAmazonのリンク先は恐らく即興曲集を併録したものだと思います)。

では、いつもの様に急速系の曲を中心に数曲をピックアップして少し詳しく見て行きます。


作品・10-1
 単音パッセージの鮮やかな弾きこなしはペライアの最も得意とするモノの一つですが、この曲ではそれが遺憾なく発揮されており、アルペジオが明晰かつ滑らかに表現されています。しかし、それ以上に目(耳?)を引くのはパワフルな左手パートで、この力感溢れる左手パートと右手の精妙なアルペジオで冒頭からグイグイと曲を引っ張って行きます。そして、0:21から【この箇所~】の箇所では定石通りにペダルを抑制気味にしつつ、特に左手パートを中心にグッと音量を落とします(右手はそれほど弱めていません)。この急激な変化が場面転換を明確に演出していていますが、聴く人によっては演出過多と感じるかもしれません。
少し先、中間部の最後にある反復進行の箇所・0:55~【この箇所~】の箇所における強弱表現も聴き手が確実に認識できる位にシッカリとつけていますし、コーダ=1:32~【この箇所~】も微妙な強弱表現を忘れずにつけており、曲の最後は消え入るような弱音で締めくくられます。
強弱の幅が広いダイナミックさとメカニカルな要素が相まったこの演奏は冒頭から強烈なインパクトを与えると思います。

ちなみに、理由はよく分りませんが、下に添付した楽譜で示している箇所【この箇所~】の左手パートの音符が何故か抜けています。

【作品・10-2】
 一番上の半音階的な動きや左手パートのスタッカートの表現はそれほど悪くは無いんですが、下に添付した楽譜の赤で囲った右手パートの内声、2指(人差し指)で担当する音が曲全体を通して基本的に弱く、所によって不自然に強くなったり弱くなったりしてイビツな仕上がりです。
 あと、中間部の終盤近く=0:41~【この箇所~】の所々やコーダのなどが分り易いですが、半音階の動きが僅かながら危なっかしくなる箇所が散見されますが、極めて高難度な上に音符の数が中途半端に少なくアラがとても目立ちやすいこの曲では許容範囲内だと思います。
それよりも気になるのが強弱表現に対する消極性で、棒弾きとまでは言いませんが余りに淡白な表現に始終しています。

全体的に見ると可もなく不可もなくと言った感じでしょうか。

【作品・10-4】
 ペライアお得意の急速な単音パッセージが所狭しと並ぶ曲ですが、冒頭からの右手のパッセージの鮮やかさは特筆すべき点と言えます。左手に急速なパッセージが移った箇所も中々の出来栄えですが、下に添付した楽譜の赤で囲った部分の音程の広いフレーズ=0:08~【この箇所~】では極めて不明瞭な表現になっていて、ハッキリ言って何を弾いてるのかよく聴き取れません(ここまでの右手パートが鮮やかさが逆に災いして、この部分の不明瞭さを余計に目立たせてしまっています)。
その少し後、右手でのアルペジオから即座に左手の速いパッセージに移行する箇所=0:15~【この箇所~】ですが、右手アルペジオのうねる様な表現や、左手のクレッシェンド(次第に強く)のかなりアクの強い表現はヴィルトゥオーゾ的なものと言えると思います。
これ以降もかなり手堅くまとめていますが、コーダ=1:39から【この箇所~】の見通しが良く安定感もある演奏は流石の出来です。

【作品・10-7】
 ペライアは基本的に細かい箇所への配慮を怠らない奏者の筈ですが、この曲では右手パート・下の声部の処理が冒頭からとても雑で、ポリーニ・DG盤よりも不明瞭な表現になっています。


【作品・10-8】
 先に取り上げた「10-1」と同じく、精巧で安定感のある右手のアルペジオもさることながら、力強く躍動する左手パートが冒頭から強いインパクトを与えます。
ただ、中間部=0:38~【この箇所~】へ移行するかなり前から音量を落として演奏してそのまま中間部へ突っ込んでいく為に場面転換がいまいちハッキリと表現できていませんし、中間部へ突入して以降や再現部=1:23~【この箇所~】へ移行する際にも表情の変化がイマイチ乏しく、人によってはメリハリに欠けると感じるかもしれません。そして左手が最も活躍する箇所と言えるコーダ=1:44~【この箇所~】においても冒頭のような元気の良い左手の表現はなぜか影を潜めています。

全体としては技巧的な精度自体に問題はないんですが、冒頭だけ元気が良くてアトは尻すぼみに近い形になっていく構成が魅力を削ぐ結果となっていると言えます。

【作品・10-10】
 冒頭からの8小節間=0:00~0:13【この音源で0:00~0:16】においては主に右手パート上側・6度の和音にシッカリとアクセントをつけ、0:13~【この箇所~】からの8小節間では右手パートの下側(親指で弾くパート)をかなり強調(と言っても極端に強奏する訳ではなく、上側をグッと弱めに弾く事によって下側を目立たせています)する事によってセクションごとのコントラストをシッカリつけています。なお、0:19~【この箇所~】のスタッカートの指示は少し甘めですがとりあえずこなしています。
これ以降も上記の様なセクションごとの弾き分けをシッカリと行って一本調子な演奏にならないようにしていますが、人によってはそれらを大袈裟すぎる表現と感じるかもしれません。

【作品・10-11】
 横の流れを丁寧に表現した演奏で内声の動きも聴き取り易いんですが、ソレが災いして中間部の終盤=0:54~【この箇所~】で数箇所の内声の弾き間違いを目立たせる結果となてしまっています(これはミスタッチと言うよりも譜読みの間違いの様な感じがします)。

【作品・25-5】
 全体的に良い出来ですが、特に中間部=0:43~【この箇所~】でペライアの良さが発揮されています。往々にしてガチャガチャとした表現になりがちな右手パートは軽やかで安定した表現をしていますし、先にも触れた雄弁な左手で内声の主旋律を繊細かつ大らかに表現しています(内声の旋律は所々で右手も絡みますけど)。

【作品・25-6】
 全体的にフレーズの開始の仕方にバラつきがあり、曲の冒頭や、左手が参加してくる箇所=0:03【この箇所~】や0:10【この箇所~】などのように探り探りテンポをアップしていく箇所もあれば、0:58【この箇所~】や1:04【この箇所~】などのようにほぼインテンポで開始する箇所もあるなどの差がかなりあって統一感の希薄さが気になるほか、最初に登場する順次下降の部分=0:16~【この箇所~】と0:19~【この箇所~】などが顕著ですが、強弱表現が殆どスルーされている箇所も散見されます。
ソコまで悪い演奏ではないと思いますが、積極的に評価できるものでもありません。

【作品・25-7】
 ショパン・練習曲集の中でも地味な部類に属するこの曲ですが、この曲集を録音する様なテクニシャン達からすると難易度が低すぎるせいか、往々にして手持ち無沙汰な演奏になってしまいがちな曲でもあります(ポリーニ・DG盤の事とは言ってません)。で、肝心のペライアの演奏はと言うと非常に素晴らしい出来で、バスの旋律と上声部の旋律、ソレらに挿まれた和音のバランスのとり方・コントロールがの上手さが抜群です。

ただ、左手パートの速いパッセージで曲が最高潮の盛り上がりを見せる箇所=1:52~【この箇所~】などが顕著ですが、表現が少し情感過多と言うか、言い方がアレですが、ドコとなく演歌っぽい表現・歌い回しではあるので好みが分かれるかもしれません。

【作品・25-8】
 「25-6」と同様に重音の練習曲ですが、この曲では25-6の時とは違って遅めのテンポを採用して丁寧な演奏を心がけているようで、少々タッチが重い気がするものの、重音の分離の良さは特筆に価するレヴェルだと思います。

【作品・25-10】
 冒頭からの徐々に強くなっていくダブル・オクターブが迫力満点なのは良いんですが、迫力がありすぎて(?)途中から登場する内声=0:07~【この箇所~】が少し聴き取りづらいのが難点です。
それと、中間部=0:53~【この箇所~】では25-7の様な情感たっぷりな演奏を聴かせると思いきや、意外にも速めのテンポでかなり素っ気無く弾いています。

【作品・25-11】
 派手な右手パートに耳が行きがちですが、左手パートが曲を牽引するこの「木枯らし」でも今までたびたび言及してきた右手パートの精巧さと左手の雄弁さ・パワフルさが存分に発揮されていています。特に圧巻なのは、中間部=1:47~【この箇所~】以降の表現で、左右の両パートが変幻自在、時には自由過ぎるほどに強弱を変化させながら鍵盤の隅々まで駆け巡っており、どちらかと言うと始終攻めの姿勢重視で突っ走るポリーニ・DG盤の演奏と違い、その「これ見よがし」とさえ言える振幅の大きい表現はガヴリーロフなどの旧ソ連のヴィルトゥオーゾ系奏者を思い起こさせるほどです。
強奏の直前に見せる一瞬のタメや、所々で見せるフレーズとフレーズの間の一瞬の間が気になる人もいるかもしれませんが、この演奏を聴いて「下手だ」と感じる人はまずいないはずです。


 以上、主要な曲をザッと見てきましたが(いつも通り、後半はかなり駆け足になりましたが…)、モーツァルト弾きとして有名なペライアから連想される「優雅」「軽やかさ」もしっかりと見受けられますが、それよりも急速系の曲で見せる「豪快さ」「ヴィルトゥオーゾ的な表現」がかなり印象に残るCDではないでしょうか。

出来不出来の差が結構あったり(ショパン練習曲集では全く珍しい事ではないですけど)、小さな瑕疵が散見されはするものの聴いて損は無い演奏だと思います。


なお、本文では触れませんでしたが、色んな所で指摘されている「10-6」のせっかちとも言えるテンポ設定や「25-2」の叙情的で軽やか表現も見逃せない点だと思います。




【採点】
◆技巧=90~79
◆個性、アクの強さ=87
◆相も変らぬCDジャケットのセンス=-100