2013年1月1日火曜日

雑記・その8 【おすすめの複数枚組(2枚以上)商品やBOXセットの紹介・その3】

またまた前回に引き続き、今回も
「おすすめの複数枚組(2枚以上)商品やBOXセットの紹介・その3」です。

前回までと同様、収録曲を詳細に書くと文章が長くなりすぎますので省略します。興味を持たれた商品がありましたらH●VやT■w■r Re■ordsなどのサイトを適宜参照して下さい。



【ロルティ:ベートーヴェン・ピアノソナタ全集(9CD)】

 曲によってどうしても出来不出来の差が発生してしまうのはベートーヴェンのピアノソナタ全集にありがちな事ですが、このロルティの全集もその例に漏れず、例えば月光ソナタなどはロルティにしては驚くほど雑な演奏と言って良いと思います。
しかし、初期のソナタの急速調の楽章では軽快かつ安定感のある演奏を聴く事が出来ますし、ハンマークラヴィーアのフーガにおいてもポリーニやグルダのように「指は回ってるけどいまいちフーガに聴こえない」と言う事もなく、テンポ自体は取り立てて速くないものの(※決して遅くはありません)丁寧な音価表現や重音の処理をしています(ただ、この楽章にメトロノームのようなテンポ感を求める方には違和感を覚えるであろう箇所はあります)。
技巧的な観点から見ると全体として上出来と言って良い部類の全集だと思います。

ただ、ベートーヴェンのピアノソナタを聴く際にメカニックの完成度よりも重厚な表現を重視する方は手を出さない方が無難だと思います。

もし「いかにもベートーヴェン的な重厚さ、安定したメカニック、古臭くない今風のクリアな録音」を求める方には、多少高価ですがアルフレッド・パールの全集をお勧めします。

威風堂々としたフォルテとその直前のタメ、ダイナミックで幅の広い巧みな強弱表現など、世間一般(?)のベートーヴェンのピアノソナタのイメージにピッタリな演奏だと思います。また、威風堂々と言っても、例えば熱情の最終楽章のコーダのこの辺りなど攻めるところはしっかり攻めていて、ただ鈍重なだけの演奏ではありません。
なお、このBOXは紙ジャケ仕様なので場所をとりませんが、本当に紙ジャケ(ボール紙の様な固めの物じゃなくて、本当にただのペラペラの紙です)なので取り扱いに多少注意が必要かもしれません。

 で、安定したメカニックがお好きな方なら、こちらも高価ですがエル=バシャの全集もお勧めです。

いつも通りのエル=バシャ節が満開で、5番の最終楽章などの速い単音パッセージも粒立ちの良い打鍵でバシッと決めていますし、28番や29番のフーガなどでも例のカクカクしたテンポ感で(この点は全ての曲でそうですが)生真面目かつ丁寧にポリフォニックな表現をしています。そしてこれも毎度おなじみですが、たどたどしいルバートやペダルを踏んだ途端に響きが結構濁ってしまいがちになる癖も健在です。
ただ、提示部の繰り返しをことごとく行なっていないのでソコが気になる方は注意が必要です。それから、単品の商品を9つそのまままとめただけの商品なので恐ろしく場所をとります。この記事を書く為にCD棚に置いてあるこの全集をあらためて見てみると、近くに置いていたブレンデルのブリリアント箱(35CD)を上回る大きさでした。


【ブロンフマン:プロコフィエフ・ピアノ協奏曲全集】

 ブロンフマンと言えば、2004年にサントリーホールで行ったゲルギエフ指揮・ウィーンフィルとのラフマニノフ・ピアノ協奏曲第3番で聴かせた「いかにもラフマニノフ」なライヴ演奏が極めて有名かつ評価が高いですが、スタジオ録音の演奏傾向はそのライヴとは異なります。素晴らしく高度で安定した技巧は共通するものの、スタジオ録音では響きが濁るほどの強い打鍵やペダルを踏み込みは抑制しており、ルバートも必要以上に行わず全般的に速めのテンポを採用して規則正しい拍感・リズム感で癖のない端正な表現をするのが特徴です。大雑把に言えばスタジオ録音はアンスネスに近い演奏傾向と言えます。
ここで挙げているプロコフィエフのピアノ協奏曲全集でもその演奏傾向は随所で聴かれ、難曲の第2番は勿論のこと全ての曲でその安定した技巧・表現を披露しているため安心して聴くことが出来、リファレンス盤としては最適な全集と言えるでしょう。

ただ、旧ソ連のピアニストによる癖の強いプロコフィエフ演奏に馴染みのある方達からするとブロンフマンの演奏はサラサラと流れすぎてインパクトが弱く感じられるかもしれません(あくまで旧ソ連の連中と比較した場合の話で、プロコフィエフの曲ですからブロンフマンもそれなりに迫力ある演奏をしています)。これはピアノソナタ全集(現在新品で入手できるのは下に添付した物ではなく、分売の物のみのようです)でも同じ傾向で、

全体的に速めのテンポを採用しながらも常に余裕があってその表現は優雅にすら感じられますし、大きな瑕疵の無さ・平均点の高さの点でもズバ抜けています。しかし、その余裕や安定感、コントロール重視(安全運転と言う意味ではありません)の傾向がプロコフィエフの曲が持つ暴力的・破壊的な側面を後退させている様にも感じられ、特にその傾向が強く出ている第1番では全体的にとても良く弾けてはいるものの、コントロールを失わないよう常にセーブかけているような演奏に聴こえます(繰り返しますが、上手い事は上手いんです)。
他にも、例えば第7番の最終楽章の終盤では高速テンポにもかかわらず巧みなペダルワークによってポリーニ盤とは対照的に引き締まった響きを聴かせていますが、ポリーニ盤の野暮ったい響きに慣れた方は違和感を覚える表現だと思います。

もう少し詳細に書きたいのですが、ブロンフマンのピアノソナタ全集はいずれレヴューで取り上げようと思うので今はこの辺りにしておきたいと思います。

あと、ブロンフマンはジンマンの指揮でベートーヴェンのピアノ協奏曲全集を録音していますが(下に添付したもののDisc1~3がそうです。併録のヴァイオリン協奏曲などに興味の無い方は分売のCDを購入した方が良いかも知れません)、

共に快速テンポ&軽快な表現を身上としている両者による演奏内容は想像通りのもので、今も昔も大鑑巨砲主義的(?)な傾向の全集が多い中で異彩を放つものとなっています。濃厚なベートーヴェンにウンザリな方などは是非聴いてみてください。



【ペトロフ:ニコライ・ペトロフの芸術(3CD)】
商品の画像は貼れませんでしたが、商品名で検索するとすぐにHITすると思います。

 この商品の目玉は何と言っても、以前は入手困難だった「パガニーニによる超絶技巧練習曲(以下、パガ超)」や「リスト編曲版:幻想交響曲」でしょう(個人的には後者に興味はありませんけど)。
「パガ超」の楽譜はIMSLPで見られますが(Wikipediaのこの曲の項にIMSLPの当該ページへのリンクがあります)、とりあえずはこの商品を入手して巷でよく弾かれている改訂版の「パガニーニによる大練習曲」と比較してみて下さい。パガ超はかなり悪趣味な曲じゃなく、一度聴けばお腹が一杯になるような無駄に音符の数の多い曲で、「こんな曲よく弾いたねぇ~」と感心するためだけの曲のような気もしますが、技巧系の曲がお好きな方は必聴だと思います(そう言う方は既に入手されているでしょうけど)。ただし基本的に、無意味に幅の広い和音・跳躍、偏執的な同音連打、意味不明な手の交差などが多いゴチャゴチャとした曲ですので、聴きようによっては地味にすら聴こえるかもしれません。

またパガ超の他にも、シューマンの「パガニーニの奇想曲による6つの演奏会用練習曲 作品10」も注目すべき演奏です(シューマンは似た様な曲名の「パガニーニの奇想曲による6つの練習曲 作品3」と言う曲も書いてますので混同しないように少し注意が必要です)。
シューマンの曲にしてはかなり演奏効果の高い曲ですが、演奏自体を細かく見ていくと、例えば第3曲なら装飾音等の細かい動きにもう少し明瞭さが期待できそうだったり、1:45辺りのバス(重嬰へ音)を見落としていたりするなどしています。しかし、全体的には極めて高レヴェルな演奏で、パガ超ほどではないにしろ録音に恵まれない同曲の貴重な録音と言えます。前回のブログ記事で取り上げたル・サージュの全集にもこの曲の録音が含まれて居ますので、この録音と聴き比べすると面白いと思います。

なお、録音年代が比較的新しいわりに、全体的に少しホコリっぽい録音です。


ペトロフにはこのBOXの他にもプロコフィエフのソナタ全集(プロコフィエフの自演録音なども含むBOX。現在でも容易に入手可能です)もあります。演奏は粗さが若干目に付くもののかなりの高水準なんですが、録音状態が良好とは言えないのが少し難点です(ヒストリカル系の録音に慣れている方は十分に対応可能でしょうけど)。



【プレトニョフ:Live at Carnegie Hall(2CD)

 プレトニョフの録音を聴いた事のある方には「ここに収録されている演奏はいつものキテレツなプレトニョフ節にライヴ特有の熱さ・粗さ・ミスが加わったものです。おしまい」で十分伝わると思います。
冒頭のブゾーニ編のシャコンヌから人を食ったような緩急の付け方や強弱変化で「らしさ」を醸し出していますし、ショパンのスケルツォ第一番などではキレの良い打鍵で指回りの良さを見せ付けています。ただ、プレトニョフにしては全体的にペダルの操作の粗さが耳に付きますが、それもライヴ特有のものでしょうか。

細かなところはいずれレビューで取り上げられればなぁと思っています。
なお、この商品には一枚のみのヴァージョンもあるらしいので注意が必要です。


最後に、鼻息がうるさいのが難点。




【ガヴリリュク:Live in Recital

先ほどのプレトニョフに続きこちらもライヴ盤です。

 ガヴリリュクは浜松国際ピアノコンクールで優勝し、中村紘子氏から「20世紀後半最高の16歳」と言う、絶賛なのかどうかがイマイチよく分からない賛辞を送られた奏者です。
日本でのリサイタルも結構行っているものの知名度は余り高くないようですが、正統派ロシアン・ヴィルトゥオーゾと呼ぶにふさわしい高い技巧と少々大袈裟ではなくスケールの大きな表現がを聴かせる期待の若手で、このCDでもブラームスのパガニーニ変奏曲・第1&第2巻やスクリャービンの第5番ソナタ、プロコフィエフの第6番&第7番ソナタ、ホロヴィッツ編の「結婚行進曲」など超ヘビーなプログラムを披露しています(なお、彼のパガニーニ変奏曲、スクリャービンの第5番はこれ以外にもスタジオ録音があり、プロコフィエフの第7番に関しては2種類ものスタジオ録音があります)。

ライヴなのでミスはちらほら散見されるものの(演目を考慮すると驚異的に少ない方だと思いますが)、総じて高いレヴェルの演奏を聴かせています。
パガニーニ変奏曲が一つのトラックに全て収録(22分31秒)されているなど商品に対する不満点はありますが(この点はガヴリリュクのせいではないでしょうけど)、彼の高いポテンシャルを知る事の出来る貴重なライヴ盤と言えるでしょう。

細かい点にかんしては後々レビューで取り上げようと思います。



最後に、上記の他にもロルティのラヴェル全集や、

同じくロルティの巡礼の年・全集などの

デュシャーブルのショパン:バラード全曲や24の前奏曲などや

同じくデュシャーブルのリスト作品&編曲集など

お勧めの複数枚組のCDがありますが、これらは前述した物と共に出来るだけ早い内にレビューで詳細に取り上げようと思います。出来れば今年中に全て取り上げられれば良いんですが、如何せん他にも取り上げたいCDが山ほどあるのでいつになるかは分からないと言うのが実情です。