2012年2月23日木曜日

アムラン 【ショパン:ピアノソナタ第2番&第3番 他】

 

今回はアムランのショパン作品集を取り上げます。左側の画像リンクが通常盤、右側の画像リンクがハイペリオンの30周年記念廉価盤。中身は同じもののようです。

《収録曲》
子守唄・作品57
ピアノソナタ第2番・作品35
ノクターン・作品27-1
ノクターン・作品27-2
舟歌・作品60
ピアノソナタ第3番・作品58


【子守唄】
あえて細かく見ると、冒頭から少しあと、0:25~【この箇所~】からの右手二声の表現が少し弱め(控えめに弾き過ぎ&少し棒弾き気味)である事や、
例によって(?)、2:18~【この箇所~】等のような速いパッセージで若干ぺダル過多気味になって細部が少しボヤけ気味になったりしているなど、
いつも通りの「アムラン節」は散見されるものの、基本的には丁寧な演奏です。


【ピアノソナタ第2番】

◆第1楽章
 冒頭の印象的な序奏はそれほど粘らずに通り過ぎます(と言うか、皆さんココで粘りすぎです。添付動画はアッサリ気味ですが)。
 序奏が終わり、第1主題・0:15~【この箇所~】では「agitato(興奮して)」の指示がありますが、やや控えめな表現です。しかし第1主題の「確保」の箇所・0:30~【この箇所~】からはかなりagitatoな表現と言うかアグレッシブに攻めていて、響きの混濁が少し増すもののアムランにしては手堅くコントロールしています。
 第2主題も基本的に丁寧な演奏ですが、第2主題の後半から小結尾に向かう箇所・1:30~1:40【この箇所~1:40辺り】と繰り返し時の3:23~3:32では勢いを優先し過ぎたのか非常にセッカチな表現になっており、左手パートを中心に響きの混濁が激しくなっています。それから少し先の1:51~など【この箇所~】の和音連打の箇所ではアムランの癖である和音の掴みの甘さが見受けられ(恐らく連打する際の打鍵が非常に浅いのでしっかりと鳴りきらない)、なんだか妙に弾きにくそうな印象を受けます。
 展開部・3:57~【この箇所~。この演奏では繰り返しを省略しているので早めに登場しています】では力強い打鍵による演奏が聴けますが、左手パートの強奏が少し重く(正確には”鈍重”。そのわりに右手パートが軽いので少しバランスが悪い)、そのうえ強奏の直前にタメを作ったりするので全体的に響きや足取りが重い印象を受けます。

◆第2楽章
 冒頭などに出てくる素早い右手の連打の箇所などでかなりペダルを踏んで処理しているのは気になるものの、
とりあえずソツなくこなしています(アムランは10度を軽く掴める大きな手の持ち主な上に、一発勝負のライブ録音でもないのでペダルを踏まなくてもさほど問題ないと思うんですが、彼はこう言う何気ない箇所ですぐにペダルに頼る傾向があります)。
少し先へ飛んで、0:34~【この箇所~】からの右手四度重音の半音上行が連続する箇所も無難にこなしていますが、
その直後、0:41~【この箇所~】の和音連打を少し乱暴と言うか弾きにくそうに弾いていて、後半の同様の箇所・4:37~【この箇所~】でも前半ほどではありませんが似たような仕上がりになっています。
 そこから少し先にあるこの楽章の見せ場(?)と言える連続跳躍の箇所・1:05~【この箇所~】のスムーズな処理は特筆すべき点と言えます。
ちなみに、中間部の緩徐部分はかなり湿っぽい表現だと感じます。

◆第3楽章
 基本的には第2楽章の中間部と同じく湿っぽい表現だと思います。他にあえて書く事と言えば、楽譜で指示されている中間部の繰り返しを行っていないと言う点でしょうか。個人的にはこの楽章での繰り返しの省略は諸手を挙げて歓迎したいです。

◆第4楽章
 アムランの事ですから細部をすっ飛ばして速いテンポで弾き飛ばすのかと思いきや、かなり抑え目のテンポを採用していて、所によって響きが濁りすぎる所はあるものの、基本的にはバスの表現を意識した丁寧な演奏を心掛けているようです。


 次の2曲のノクターンはあえて取り上げる必要もないと思うので飛ばします(「このCDではノクターンに最も注目してたのに!」と言う方はいらっしゃいませんよね?)。

【舟歌】
 曲への入れ込み具合がかなりのものなのか、比較的インテンポ主体による演奏が多いアムランにしてはテンポの揺れが激しく強弱表現も積極的に行っていて、どちらかと言うと巨匠風な仕上がりとなっている他に(あくまで「いつものアムランと比べて」ですが)、全体的にいつもよりも細部への丁寧な気遣いが感じられる熱演です。
細かい所で気になる点をいくつか挙げますと、まず最初は0:51~【この箇所~】からの箇所の右手の内声のある音(下に添付した楽譜参照)を、理由は分らないですが大よそ16分音符分ほど早く打鍵しています(ハフ盤も似た傾向ですが、アムランはより顕著です)。
 そこから少し先の右手パート、単音のトリルから三度重音トリルへ移行するの箇所・1:44~【この箇所~】ですが、丁寧で弱めのタッチが長所であるアムランも少しガチャガチャした打鍵になっている上に、途中からの左手の強奏と少し過剰なペダリングによって重音トリルが聴き取りづらくなっています(ここ以外の重音トリルの箇所も似た傾向で演奏されます)。
上記の他にも内声の処理が気になる箇所が少しあるものの、先に述べましたように、全体的にはアグレッシブさと丁寧な表現が印象的な熱演・名演です(爆演好きの方からすると”ソツの無い演奏”と言う印象かもしれませんが)。



【ピアノソナタ第3番】

◆第一楽章 
 かなり分厚い和音が頻出する第一主題の冒頭でいつもの悪い癖が出ています。和音をムラ無く鳴らす事に無頓着なので、内声の横の流れが殆ど聴こえません。そして0:05~【この箇所~】からの和音を何故か全て微妙にバラし気味で弾いており少し締りの無い表現になってしまっています。
上記の箇所は手の小さい(と思われる)奏者はかなり苦労している跡が見られる所ですが、手の大きなアムランならもっと丁寧に演奏・表現できるはずです。
 少し先の右手・四度重音がポイントの順次下降から続く左手・0:44~【この箇所~】の部分は
例えば添付音源のようにハッキリと(と言うか、これ見よがしに)弾き過ぎてもヤボったいですが、アムランは少し不明瞭すぎます。
さらにその直後の箇所、右手でカノン風の二声を受け持つパート・0:49~【この箇所~】では、目立つ上の声部に比べて下の声部の表現が雑とまでは言いませんが、丁寧さに欠けますし
また少し後の1:05~【この箇所~】の箇所での右手・内声ももう少し丁寧さが必要です。

 全体としては、とりあえずソツ無く纏めてはいるものの、突出した長所がないだけにもう少し明瞭さに気を遣って欲しい所です。

◆第二楽章
 弱音による素早い右手のパッセージがキモとなる急速部分が印象的な楽章ですが、採用しているテンポ自体は速いものの、弱音による細かいパッセージの明瞭さが今ひとつな事に加え、強弱表現を含むアーティキュレーション(文章で言う句読点の様なものです)が置き去りにされてるなどの気になる所はありますが、ここでもとりあえずはソツなく纏めています。

◆第三楽章
 0:21~【この箇所~】から「cantabile(歌うように)」の指示があって、ロシア系(ソ連系)のピアニストならシツコイくらいに大袈裟な歌い回しをしがちな楽章ではありますが、アムランは意外と大らかに歌い上げるものの、程好く抑制された弱音主体の演奏を聴かせている様に感じます(この点は個人差があるので、人によってはアッサリしすぎと感じるかもしれませんが)。
個人的には最終楽章の前にお腹一杯になるほどクドい歌い回しを延々聴かされるのは御免こうむりたいので、もっとアッサリした演奏でも良い位です。

◆第四楽章
 ヴィルトゥオーゾ・ピースにふさわしい堂々とした序奏を聴かせてくれて後の展開に期待を抱かせてくれますが、その期待は見事に裏切られます。
 序奏直後の0:09~【この箇所~】には「agitato(興奮して)」の指示があるワリには少し悠長な表現です。0:29~【この箇所~】はペダルによる混濁が激しくなるだけで演奏表現自体に大きな変化は見られません。
長調に転調する0:51~【この箇所~】の箇所でも相変わらず締りの無い演奏が続き、0:53~【0:54~】からの右手パートの急速な下降フレーズは聴こえるか聴こえないかの弱音からクレッシェンドして行き(そうする理由が分りません)、肝心な音楽の流れの主体である左手は殆ど表現されていません(これ以降に出てくる同様の箇所でもほぼ同じです)。
 この原因は、恐らくアムラン自身が熱心なピアノ音楽のリスナーなので(どこかで読んだ事があります)、演奏する際に「演奏を聴いてる人間がこの場面で一番注意して聴く箇所はドコか」や「どう弾けば『弾けている』と思われるか」と言う事を考慮しているからだと思います。
だからアムランの演奏はこのCDに限らず総じて「聴き手の注意が最も行きやすいと思われる箇所は丁寧に瑕疵を無くして行き、それ以外はそれなり、または二の次」と言う傾向になりがちで、パートごとの弾き分けやスタッカートとレガートの弾き分けや強弱表現などの細かい箇所への気遣いが後回しになるんでしょう。

話が逸れましたが…、

 御存知の様に、この楽章のロンド主題の左手パートは再登場するたびに音数が多くなるので後半へ行くほどインテンポの維持が難しくなる上に全体的な響きが混濁してくるわけですが、最後の主題開始時・3:23【この辺り】では「恐らくやるだろうな」とは思っていましたが、案の定(?)、左手・オクターブ下の音を追加をしており(ソナタ2番・最終楽章の最後でもやっているんですが、奇を衒わないオーソドックスな演奏表現が多い奏者として認知されているらしいアムランは意外とこのハッタリ的な手法が好き)、既にかなり混濁していた響きをさらに混濁させると言う不可解な行動に出ています(迫力重視で濁りは気にして無いんでしょうね)。
 で、その後もインテンポを維持しようとはしますが音数の多い左手パートのおかげで
所々で左手パートにタイミングを合わせる為に右手パートのテンポが不可解に遅れます。元々テンポ揺れの激しい奏者なら気にならないんですが、アムランは基本インテンポ維持派なので余計に目立ってしまうと言う皮肉な結果になってしまっていますし、テンポが落ちたり揺れたりしても、その分だけ細部の明瞭度が上がるなどのプラスの効果があれば良いんですが、この場合は「響きは濁ったままでテンポだけが虚しく揺れる」と言う悲しい結果になっています(低音の動きの表現すらあまりありません)。
 これ以降もコーダの4:20~【この箇所~】からの3音ひと塊のフレーズが
キレの無い打鍵と雑なペダリングのおかげで滑舌の悪い早口を聴いてるみたいですし、最後の最後の箇所・4:33~【この箇所~】から4音ひと塊で拍がずれて行く感じになるフレーズでも
「とりあえず音は鳴ってる。…かな?」程度の仕上がりになっています(まぁ、いつも通りのアムラン節だと言ってしまえばソレまでですが…)。

 ハッキリ言ってしまうと、「インテンポを維持する為に細部を犠牲にしすぎ」などと言う以前の問題で、「納得が行くまでとことん録り直すらしいアムランが何でコレを録り直さなかったんだろう?」と疑問に思うほどの出来です。



 以上、一通りザッと見てきましたが、総評としては、舟歌の出来は別として(ハッキリ言って、この曲を聴くためだけに購入しても損はしないと思うくらいの演奏です)、その他は基本的に「とりあえずはソツ無くこなしている」以上でも以下でもない演奏と言えます。
 これが例えばアルカンなどの曲の様に競合盤にロクな物が殆ど無いマイナーな楽曲の録音ならば、とりあえずソツ無くこなすだけで

「スムーズに弾いていて凄いねぇ」

となるかもしれませんが、超強力な競合盤がひしめいているショパンやシューマンなどの録音ではソツ無くこなすだけではどうにもならないばかりか、逆に優秀な録音と比較される事によって

「アムランってメカニック世界最強とか言われてるけど、世間で言うほど圧倒的な差でもないよね」
とか
「こうやって他のと比較してみると、結構細部が雑だよね」
と言う事実が、熱心なアムラン信者の方達以外にバレてしまいかねません。




 確かにアムランは決して下手ではありませんし技術的には高い水準にあるとは思いますが、個人的にはメジャーな曲は録音せずに、誰も録音しないような無駄に音符が多いだけの詰まらないマイナーな難曲を録音する隙間産業的ピアニストとしての活動に専念する方が本人の為と思います。



【採点】
◆技巧=90~73
◆個性、アクの強さ=85
◆「値段が高かったんで凄いCDと思いたい」度=99

2012年2月3日金曜日

ペライア 【シューマン:交響的練習曲&パピヨン(蝶々)】



【収録曲】
シューマン:交響的練習曲(遺作変奏付き)
シューマン:パピヨン(蝶々)

 バッハ弾きやモーツァルト弾きのイメージも強いですが、非凡なテクニックを持つヴィルトゥオーゾとしても知られるマレイ・ペライアのシューマン作品集を取り上げます。


【交響的練習曲(遺作変奏付き)
 まず曲順ですが、遺作変奏・全5曲を終曲(第12練習曲)の後にまとめており、1番→4番→3番→2番→5番の順に配置しています。

※注 ペライアの40周年記念BOXに入っているCDでは、レコード発売当時と同じ曲順で収録されています。具体的に言いますと、以下の様な曲順です。 練=練習曲、遺変=遺作変奏

主題→練1→遺変3→練2→練3→練4→練5→遺変4→練6→練7→遺変2→遺変5→練8→練9→遺変1→練10→
練11→練12(終曲)


では、数曲をピックアップして少し詳しく見て行こうと思います。


◆主題
  ゆったりとしたテンポで歌い上げる様に演奏する場合が多い中、ペライアはかなり速めのテンポを採用しており、あまりタメを作らずに比較的淡々と進んで行きます。

◆第1練習曲
 主題と同様にこの曲でもかなり淡白な表現に徹しています(と言っても、曲調が曲調だけにどちらも憂いのある表現にはなってますが)。この練習曲の肝と言えるスタッカートとレガートの表現はかなり的確に行っています。

◆第2練習曲
 この曲でペライアは指定の繰り返しを行っていません。まずは繰り返しがどこで指定されているかと言いますと、【この曲の開始時点~3:13】までが前半で【3:14~4:00】が後半です。リンク先の演奏は後半部分のみ繰り返しを行っています。
例えば、繰り返しを行っている他の演奏を見ると、ポリーニ盤では2分52秒、アムラン盤では3分13秒、より遅いテンポのグレムザー盤では3分37秒、極端に遅めのテンポのポゴレリチ盤では4分を超える長さとなっています。
で、ペライアはと言うと、繰り返しを行っていない上に、採用しているテンポがかなり速めなので1分19秒で終了しており全体的に極めてコンパクトな印象です。
個人的には繰り返しは絶対に必要とは思いませんが、この点は人によって意見が異なると思います。

なお、テンポがかなり速いために内声の和音の表現が
少しおざなりと言うか、和音の違い・和声の推移が感じられにくく、ガチャガチャとせわしない印象を強く受けます。

◆第3練習曲
 左手の主旋律をかなり押し出して表現していますが、その表現自体は平坦すぎる感じもします。右手のアルペジオは細かく見るとモタつく所も少し見受けられるものの、精巧さ・安定感はかなりハイレヴェルなものと言えそうです。

◆第4練習曲
 この曲は右手が先行して主題を演奏して左手が後から追いかけていくカノン風の練習曲ですが、楽譜に書かれている「sf(スフォルツァンド=その音を強く)」の表現が殆どスルーされている為に、
フレーズ感が極めて不明瞭で、ただたんに次々と和音が鳴っているだけの様な表現になってしまっています。さらに曲の最後辺り、0:51から【6:23~】は休符を全く無視して演奏しており締りの無い弛緩した演奏になってしまっています(この曲は上に添付した楽譜の様に、殆どの箇所で八分音符の和音の後に八分休符が書かれています)。

この演奏は曲集の中で突出して悪い出来の演奏と言えます。

◆第6練習曲
 若干遅めのテンポ設定で極めて丁寧に演奏してはいますが、「Agitato」の指示がある曲にしては微温的な表現であり、キレも感じられずかなりモッサリとした印象を受けます。

◆第7練習曲
 この曲では主に内声に現れる半音階的な動きの表現が重要ですが、
これらの動きが不明瞭で見えづらい(認識しにくい)演奏をする奏者も少なくない中で(例えばアムランとか)、ペライアは非常に堅実で丁寧な表現をしています。その他にも、曲の最終盤にある少し長めの左手オクターブ連打、0:36~0:42【この箇所~8:25】&1:01~最後【この箇所~8:51】
における安定感と的確な強弱表現は少し地味ですが特筆すべき点だと思います。

◆第12練習曲(終曲)
 この曲でも良心的(?)で丁寧な演奏を行っており、例えば、1:33【この箇所辺り~】からの箇所などで見られる前打音絡みの素早い同音連打を含むフレーズは
大抵の奏者が弾きにくそうに弾いたり前打音を不明瞭に弾き飛ばしていたりする中で、ペライアは少し安全運転気味な感じはするものの、とても明瞭に表現しています。
 ただ、1:02~1:11【この箇所~15:00】における最低音の同音連打の箇所では
丁寧ではあるものの不自然なまでにグッとテンポを落として弾いており、もはや「安全運転」を通り越し、ビビりながら弾いてるようにすら感じられます(リンク先の音源も似た様な演奏です)。中間辺りにもこの箇所と同じ様な箇所、3:28~3:37【この箇所~17:23】があるんですが、
こちらは最初の箇所とは違って左手が同音連打のみに集中出来るのでスムーズに演奏できそうではあるんですが、最初の箇所と同じ様にスローなテンポで演奏しています(恐らくテンポの整合性を考慮しての事だと思われます)。

◆遺作変奏1番
 この曲ではかなり速いテンポを採用しており颯爽と弾き切っています。所々でカスりや音抜けのような箇所があるんですが(この曲の録音ではわりと普通の事ですが…)、アルペジオ自体は基本的にかなりの弱音で弾いている為に余り目立たなくなっています。



 以上、かなり駆け足で見てきましたが、基本的には全曲を通して安定した堅実な演奏をしており明らかな瑕疵などは余り見受けられません。
 実際問題として、この交響的練習曲やショパンのエチュード集の様に色んな奏法が盛りだくさんに次々と現れる作品集においては、どうしても出来不出来の差がハッキリと出てくる場合が多いんですが、ペライアの演奏は他の奏者に比べて安定感があり、減点法で見た場合はかなりの高レヴェルな仕上がりと言えます。
 しかし、「突出した何か」を求めた場合、強烈なインパクトに欠ける印象がある事も事実です。例えば声部(パート)ごとの弾き分けの点を見ても、それ自体は非常に的確にこなしているんですが、意表をつく様な大胆な強調なども見られず少し平凡な印象を受けます。

良い様に言えば「バランスの取れた癖の無い演奏」と言えますが、「もう一つインパクトに欠けるアピール力の無い演奏」と言えるかも知れません。



【蝶々(パピヨン)】
 交響的練習曲で字数を使いすぎたので大雑把な総評のみとしますが(このブログ的な観点からは扱いづらい曲集でもありますので…)、ペライアはこの曲集でも丁寧な演奏をしています。元々メカニックが優れた奏者なので【このアルペジオ】【この速めのパッセージ】や直後の和音連打、【この左手の地味に幅広いアルペジオの安定性とニュアンスの付け方】【この地味にテンポが速い上にコッソリと重音もあったりして滑らかさに欠ける演奏もたまに見受けられる箇所】でも、ペライアは基本的なメカニックの高さを活かして苦労を感じさせずに当然の様にサラッと弾いていきます。
例えるなら、いかにもヴィルトゥオーゾ的なガヴリーロフの同曲演奏が剛ならばペライアの演奏は柔と言え、技巧面ではお互いに遜色の無いレヴェルですが、ペライアは全編に亘って大袈裟な演奏表現は控える傾向にあります。

実を言うとこの「情感過多になるほどの大袈裟な演奏表現は避けてスマートに弾く」と言う点こそが本盤の最大の特徴と言えるかもしれません。
このブログでは「歌い回し」や「ルバートのセンス」などの点については個々人の好みの差が極めて大きいので基本的に極力触れずにいるんですが(明らかにクド過ぎる場合は除く)、敢えてその点に関して言及すれば、本盤で聴けるペライアの演奏は「歌心は適度に感じさせつつも、清潔感に溢れたスタイリッシュな演奏」と言えると思います。


この「バランスの取れたスタイリッシュな演奏」はシューマンが苦手な方にはお勧めかもしれませんし、
ピアノ学習者の方がこれらの曲を弾く際の参考にする音源としても変な癖がないので悪くない選択肢だと思います(反面教師的な扱いなら別かもしれませんが、間違ってもポゴレリチ盤などはお勧めできませんからね)。






【採点】
◆技巧=88.5
◆個性、アクの強さ=60
◆ジャケットのセンス=???