2011年9月13日火曜日

アムラン 【シューマン:幻想曲&ソナタ第2番&交響的練習曲】

2回目。今回はアムランのシューマン作品集(Hyperion・CDA67166)です。



 アムランと言えばゴドフスキーやアルカン、ソラブジのような知名度の高くない作曲家(今でこそ有名ですが)の難曲を弾くピアニストとして知られ、その技巧レヴェルの高さは現在世界一とも言われる事もある奏者です。

このCDの収録曲は全てシューマンの作品で
「幻想曲」
「ピアノソナタ第2番」
「交響的練習曲」

 幻想曲の印象的な出だしはかなり快調な滑り出しです。しかし、ペダルの雑さと残響大目の録音とが相まって曲が進むにしたがい明瞭感が後退していき(左手のタッチが弱いのも原因)、1:09~【この1:08辺り~】の左手のアルペジオ含みの処理が甘くなってしまっています。
 アムランはこの手の余り目立たないところへの意識、特に休符の表現やスタッカートとレガートの弾き分けに無頓着な傾向が見受けられ、第一楽章7:16~【この7:27~】からのスタッカートや休符の指示のスルーッぷりはまだしも(フレーズ自体は7:10~【この7:21~】から始まって7:23【この7:34】まで続くんですが)、
同じく第一楽章5:32~【この5:43~】「チャ~ラ~ラ~、タッ、タッ、タッ、チャ~ラ~ラ~、タッ、タッ、タッ、」と続くところの「タッ、タッ、タ」の部分のスタッカート
を冒頭から丸っきり無視(所々甘くなる人はよくいますが)するのはどう言う理由によるものなのかよく分かりませんし、目立つ所でも、例えば、幻想曲における難所として有名な第2楽章の最後の跳躍6:57~【この6:46~】における休符を殆ど無視したペダルの無頓着振りは、
速めのテンポでインテンポを維持する為の止むを得ない措置だとは思いますが、疑問を抱かざるを得ません(同じ第2楽章の最後の主題開始時5:47【この5:40】で左手・オクターブ下げ攻撃をやってる場合じゃないでしょ)。

 この様に、かなり適当にペダルを踏みつつ弱めのタッチで『私、とりあえずインテンポで音は出しています』とアピールする演奏傾向はソナタ第2番の最終楽章(特に最後の追い込みの4:47~【この5:04~】でも聴かれますが、これはアムランが技術的な難所を安全かつ速めのテンポで処理する時に用いる常套手段と言えるものです。
あと、この最終楽章のロンド主題にある0:09~【この0:11~】や2:17~【この2:26~】や4:28~【この4:39~】などに出てくる短いフレーズですが、
ココはラヴェルのピアノ曲(ほど複雑では無いですが)などでよく見られる左右の手が重なり合う音の配置になっているので巨大な手を持つアムランにとっては非常に弾きにくい箇所だとは思うんですが(シューマンのトッカータなどで手の小さい奏者が苦労するのと同じ感じかも)、出来栄えとしてはハッキリ言って手抜きと言われても仕方が無い位に雑な演奏になっていて、この箇所が再登場するごとに仕上がりが酷くなっていっています。


 さて、前述しましたペダルの多用と弱めのタッチによる不明瞭になりがちな演奏傾向(欠点)が最も現れているのが交響的練習曲であり、「練習曲・3【この曲】」では、ペダルの指示がありはしますが「右手スタッカート、左手はスラー」の指示などは眼中に無いかの様にペダルを踏みまくって処理していますし(のワリに不安定)、
この曲集で最も派手な部類に入る「練習曲・6」では細部の不明瞭さがさらに増すばかりか、対旋律的なバスの表現がほとんどすっ飛ばされています(早い話が弾けてない)。続く「練習曲・7【この曲】」では速めのテンポで開始してしまった為に、最後の左手の高速連続オクターブ・0:32~【この8:19~】と0:56~【この8:45~】でリズムを維持出来ずに殆ど崩壊寸前に陥りそうになってしまうと言う単純なミスを犯しています(ここは余り目立たないところかもしれませんが皆さん苦しそうに弾きます)。
さらに「練習曲・10【この曲】」では、この練習曲のキモである内声の半音階的な動きの表現が曖昧で、特に前半の最後の部分、0:13~0:16【この11:29辺り~11:33】などでの右手による内声の動きが曲が進むにつれ見えづらくなって行きます。
この他にも目立たない細部でのいい加減な箇所があり、例えば「練習曲・12【この曲】」の1:26~1:32の箇所【この箇所~14:59辺り】のバス(最低音)の「タ~タラッタ、タ~タラッタ…」と言うリズムで一貫して続いていく同音連打ですが、
この最低音の連打は音域が低い為にハッキリとした発音がしづらいためか、所々で不用意に強めの打鍵をしてしまう奏者や、前後のフレーズに比べて不自然なまでにテンポを落としたりする奏者も居るなど皆さん地味に苦労していますが、アムランはテンポこそソレほど落とさないものの所々で不用意に強めの打鍵をしたかと思えば、カスって殆ど発音できていない箇所もあるなど明らかに安定感の無い演奏になっています。


  上記の事柄はアムランに限らず他の奏者でも程度の差こそあれ見受けられる事です(言及箇所を確認するために貼ったリンク先の演奏を聴いても判りますよね)。が、強靭な打鍵で聴くものを圧倒する訳でもないし、取り立てて歌い回しが上手いわけでもないアムランは「どんな曲でもインテンポで危なげなく弾いてのける」ことが生命線。つまり、瑕疵の少なくない演奏には魅力が感じられなくて当然と言えます。
 大体、ポリフォニックな表現とリズミックな表現が求められるシューマンを録音したこと自体がミスだったとすら思えます。



 以上、何だか欠点ばかりを挙げた感がありますが、他の方のこのCDに対する批評を拝見すると、奏者がアムランと言うだけで「アムラン=超絶技巧=完璧」的な先入観で聴く人が多いのではないかと思い「こんな意見を言う奴が居ても良いよね」ってスタンスで書いてみました(実際に雑ですし)。


 絶賛する記事は沢山の方達が書いてますから。




【採点】
◆技巧=84.9~70
◆個性、アクの強さ=65
◆ヤッツケ度=100