2011年9月12日月曜日

ポリーニ 【ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの三楽章&プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番&ウェーベルン:ピアノのための変奏曲・作品27&ブーレーズ:ピアノソナタ第2番】

まずはこのブログについての簡単な説明を。

このブログは、クラシックのピアノ曲を聴くのが大好き(←だが弾くのはヘタクソ)な私が聴いたCD等についての感想と言うかコメントを勝手気侭に書いていこうって事で初めてみたモノです。
御存知の様に、「CDレヴュー」や「CD聴き比べ」のブログやHPはすでに沢山ある訳で、かなり「イマサラ」な感じがある事は否めませんが、まぁ、「意見の数や種類は多い方がイイよね」って事で、どうかお付き合いのホドを。

と言う事で、早速CDレビューを。今回は初回と言う事で、超有名なこのCDから
 



ポリーニのDGデビュー盤です。ブログの開始(=デビュー)と掛けてる訳でも無くはなかったり…。
さて、収録曲ですが
◆ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章
◆プロコフィエフ:ピアノソナタ第7番
◆ヴェーベルン:ピアノのための変奏曲
◆ブーレーズ:ピアノ・ソナタ第2番

このCDに収録されている「ペトルーシュカからの3楽章」は、のちに「ピアノ独奏版ペトルーシュカ=ポリーニ盤」と言うのが定説になってしまった(?)ほどの超有名な演奏で、良くも悪くも、この演奏がこの曲を聴く際の「ある種の基準」となっている方も多いのではないでしょうか?
もっと言えば、このCD(当時はレコードですが)が発売されて以降にこの曲を録音したピアニストで、程度の差は抜きにしてこのポリーニ盤を意識してない人は殆ど居ないと思われるほどの影響力のあるものだと思います。例外として挙げられるのは、ワイセンベルクの演奏の流れを汲むエル=バシャくらいでしょうか。

さて、「圧倒的なまでに完璧な演奏」として知られるこのCDに収録された演奏ですが、ポリーニのメカニック上の欠点である「打鍵時のガチャガチャとした雑音」と「大雑把なペダリング」、それに「ポリフォニックな表現の弱さ」はこのCDでも聴かれます。


さて、ペトルーシュカからの三楽章の第一曲、冒頭部分が終わって少し経った0:13で装飾的に「チャララン!」と鳴る急速なフレーズは「右手・5連符、左手・6連符」と言う構成なんですが(次の小節のアタマも含めるとそれぞれ6音と7音のフレーズ)、右手は明瞭に発音をしているものの、録音の関係もあると思いますが左手の存在感がイマイチです(右手が鮮やか過ぎるので余計にそう感じられます)。
少し先の0:43~0:44の分厚い和音連打ですが、この箇所に至るまでも過剰なペダルによる響きの飽和が見られましたが、ここは特に分かり易い箇所です。
1:00~の三段符のパートでは全ての音を明確に発音させてはいますが、重層的な響きの表現という点では多少弱さも見受けられますし、1:02辺りの三段符の真ん中のパート、”ラ”と”シ”の和音と、その上の”ミ”を素早くトリルする箇所なんですが(楽譜を貼れれば良いんですが…)、このトリルは”ラ”と”シ”の和音で終了すべき所ですが、ポリーニの演奏では”ミ”で終了している様に聴こえます。スロー再生で良く聴いてみると最後の”ミ”の後に”ラ”と”シ”の和音が鳴ってる様に聴こえなくも無いんですが、ペダルを踏みっぱなしにしているため”ミ”がダラ~ッっと延びっぱなしになり細部の表現に支障が出ているわけです。
あと、余談ですが、2:10で一箇所だけバス(最低音)の「」が抜けてます。

第二曲ですが、左右交互に行う複調のアルペジオの箇所・0:50からの一連のフレーズでは打鍵時のガチャガチャとした雑音が如実に出ていてます(録音にも問題がありそうですが、幾らなんでもカンカン叩きすぎ)。
かなり先の2:42からはアグレッシブな演奏&テンポのお陰で、最初の小節(四分の二拍子で、左手パートが「ダッ!ダッ!ダ~」ってリズムになってる所)のスタッカートのついた右手の内声3度重音と、次の小節(四分の三拍子)のスタッカートのついた右手二声のパートや左手の急速なアルペジオが曖昧ですし、全てを強く打鍵している為に最後に一音だけ右手を飛び越えて弾くアクセントの付いた「」の音もアクセントが付いてるように聴こえませんし、それ以降の2:50辺り~2:59辺りの左手の急速なフレーズも音は鳴っているものの明晰とは言いがたい出来です(この辺りは右手と同等、もしくはそれ以上に左手の音数が多いのに加え、楽譜指定通りの速いテンポである事、かなり古い時期の録音などの条件が重なった事もあって、ある程度は致し方の無い面もありますが)。

第三曲では冒頭から少し先、1:21から左手のみで重音トリルと三段譜・中段「レ、レ、ミ、ミ、レ、レ、ファ、ファ」と続くメロディを弾く箇所があります。この中段のメロディと右手パートの一番下の声部が音域的にカブっていているんですが、ポリーニはどちらも同じ様な音量で弾いている為にお互いの声部が混同して少しミスタッチをしている様に聴こえます。実は、少し先の2:04~2:10にも左手のみで重音トリルをしながら「ファファ、 ミミ、 ファファ、 ミミ、 ファファ、 ミミ」と弾いていく箇所がありますが、ここは左右のパートが音域的に少し離れているので前述の様な事は起こりません(ただ、「ファファ、 ミミ、~」が少し弱くてイビツな感じはしますけど)。
かなり飛んで、5:44からは左手の素早い和音連打が合いの手(?)の様に「ダダダダッ!ダ!」と挿まれますが、5:58以降はその和音連打に右手も少し参加する形となっていて(最後の6:07は違いますが)、特に6:01と6:04は和音連打が少し不明瞭になっています。



プロコフィエフ・ピアノソナタ第7番ですが、第1楽章の0:26~【この0:27~】の箇所に掛かっているスラーはフレージングスラーと解釈してリンク先の演奏の様にスタッカート(気味)に弾く奏者も多いですが、
ポリーニはレガートで演奏している上に「」の指示のわりにかなり大人しい表現をしています。
少し先の0:39~【この0:39辺り~】からの「secco(乾いた。短く切って)」の指示がある箇所では和音連打と休符の表現が甘く若干歯切れの悪い演奏になっています。
そして徐々に喧騒が収まっていき、1:38~【この箇所~】から第二主題に突入する訳ですが、その第二主題の後半・3:28~【この3:41~】の「ジャ~~ン、タララララダン~」と言うフレーズの最後の「ダン~」と言う和音の鳴るまでのタイミングにホンの一瞬だけですが「間」と言うか「タメ」があって、
コレが普段からタメの多いロシア系などの奏者であればむしろ「らしさ」さえ感じる表現だと思うんですが、インテンポ重視派(?)であるポリーニがやるとかなり違和感を覚えます。なお、少し先の似たようなフレーズ・3:33~3:36【この3:39~3:41】や、3:49~3:51【この3:55~3:57辺り】、3:54~3:56【この4:00~4:02】でも同様の傾向です(技術的な問題でタメなければ弾けない等とはまず考えられないので、タダの癖だと思いますが)。

少し前後しますが、この楽章の目玉である3:39~【この3:45~】からの展開部ですが、例えば4:07~4:10【この辺り~4:17辺り】で聴かれる様な休符の表現の甘さや
4:32~【この4:42~】からの急速な音階駆け上がりでの左手の存在感の稀薄さや、
4:37~【この4:47~】や4:42~【この4:53~】の「secco=(短く切って)」の指示がある箇所での若干の歯切れの悪さなど、
細かい所で結構気になる箇所がありますが、前述の様に録音の古さによる影響も少なからずあると思われます。


第2楽章はサラッと見て行きたい思います。多声的な書法で書かれたこの楽章ですが、序盤では基本的にソフトペダルを踏みっぱなしにしたような抜けの悪い弱音を使い、盛り上がる所ではかなりペダルを踏み込みつつ勢いで乗り切ろうとしてる風にも見受けられ、楽譜に書かれた音自体は出ている(と思われる)ものの、多声的な表現と言う意味ではいまいち弱いです。
例えば、かなり盛り上がってきた2:37~【この2:38~】での複数ある内声の半音階的な動きは
強烈な打鍵(って言うか、ブッ叩き)による雑音や、かなり深いペダリングによる響きの飽和、そして少し速めのテンポ設定のお陰で少々聴き取りづらくなっています。

少し先の2:57~【この3:00~】のフレーズは、第1楽章の展開部に出てきた急速なフレーズ【再び貼りますが、この4:42~】と似た感じのもので、この少しあと3:18~【この辺り~】にも更に同じ様なフレーズがあるんですが、
2:57~の箇所ではかなりハッキリと左手パートが聴き取れるものの、何故か3:18~の箇所は殆ど聴き取れません(録り直せばよかったのに)。


さて、この曲の見せ場と言える第3楽章を見て行きますが、実は、前述したポリーニの欠点である「打鍵時のガチャガチャとした雑音」と「大雑把なペダリング」が最も出ているのがこの楽章です。
冒頭から暫くの間は右手の和音や左手のオクターブにキレがあり、かなり緊張感のある演奏になっていますが、0:40辺り【この0:43辺り~】から明らかにペダルが過剰になり始め、0:45~【この辺り~】からは休符の表現はスッ飛ばされキレもヘッタクレも無いユルユルな演奏(?)になっています。
その少し先の0:55~【この0:58~】の印象的な左手での「タッ、タラッ、タッ! タッ、タラッ、タッ!」と言うフレーズがいまいちハッキリせず、大袈裟に言えばダンゴ状態になっています。なお、これ以降も似たフレーズが続きますが、ソレ等の箇所ではペダルを踏みっぱなしにしているので休符の表現すらされていません。

直後の0:57~【この1:01辺り~】の左手、「タッ! タッ、タッ、タタッ! タタラララ~」と言うフレーズでも、
休符が殆ど表現されておらず、発音後の処理が極めてズサンになっています(これ以降の似た箇所でも同様の処理です)。
上記の箇所に共通している要素は、左右の手の受け持つ音域がカブったり、手の交差を要求している事で(添付動画を御覧になれば判り易いと思いますが)、もしかすると、巨大な手を持つポリーニにとっては、これらの箇所が人並み以上に厄介だった為に止むを得ずこの様な措置をしたのかもしれませんが、リズミックな表現が重視されるこの楽章においては手抜きと言われても仕方の無い処理だと思います。

次は最大の難所である(らしい)終盤の箇所・2:33~【この2:41~】を見て行きますが、この箇所は2:52【この辺り】までの間、一貫して左手は「ダッダ~ダッ! ダッ! ダッ!」と言うこの楽章の冒頭に見られるリズムを維持しています(と言うか、維持する様に書かれています)。
で、大抵の場合は楽譜通りに音を出すだけでも苦労するこの箇所においても、どうにかして「ダッダ~ダッ! ダッ! ダッ!」と言うリズムやアクセントを維持するため頻繁にペダルを踏みかえたりして悪戦苦闘する訳ですが、ポリーニはこの箇所でペダル操作を一貫して

『「ダッダ~ダッ!」の間ずっと踏んですぐ離し、再び「ダッ! ダッ!」の時に踏んですぐ離す』
と言うパターンで繰り返しています。それ故に、最初の「ダッ」の音が延びっぱなしになり、後続の音を邪魔する(お互いに混ざり合って前へ出てきにくくなる)事によって左手パートが不鮮明な仕上がりになっています。
この様なペダリングを採用した理由は、おそらく、ペダルを動かすパターンを一定にする事で手の動き(打鍵)に集中する事と、もう一つの大きな理由として、ラクをして音を滑らかに繋げつつ打鍵の粗を隠す為だと思われます。一般的には「ペダルは誤魔化す為に使うものじゃなく、響きを変えるため等に用いる」と言うのが御題目になっているらしいですが、この箇所でこれほど過剰なペダリングをする理由が他に見当たりません。
まぁ、そのお陰でとりあえずインテンポで楽譜に書かれている音は出ているので(特に右手パート。コチラの方が目立ちますから重点的に仕上げたんでしょう)、ソレだけが救いと言えます。

※ 後日記(お詫び)
「インテンポで楽譜に書かれている音は出ている」と書きましたが、2:53辺り【この辺り】でバスをミスタッチしていました。詳しくは下に添付した楽譜を参照してください。



上記のパートの後、2:52~3:01辺り【この辺り~3:10辺り】の休み無く続く分厚い和音連打は、大抵の人が途中で息切れして全ての和音をシッカリと鳴らし切りにくい箇所ですが(特にテンポがポリーニ並みに近づけば近づくほど)、ポリーニは毎度御馴染みの深すぎるペダリングではあるものの、怒涛の如く全ての和音をインテンポでシッカリと親のカタキのように『ガンガンバシバシ』と騒々しくブッ叩きまくっています(ココまでやれば立派です…)。



さて、第3楽章についての余談ですが、この曲を数多く聴いてこられた方の中には2:41と2:43【この2:49と2:51】の跳躍で一瞬の間が空く演奏が少なくない事はご存知かと思いますが、コレ、実は左手に難があるらしいです。この箇所の楽譜を添付してみますと、
以上の様な音の配列になっていますが、右手パートにオッターヴァ(書かれているより1オクターブ高く弾く指示)が出てきたり、左手パートが途中でト音記号になったりして移動距離がイマイチ判りにくいので、左右のパートを別々に、しかも右手パートは全てト音記号でオッターヴァを用いず、左手パートは全てヘ音記号で統一したものを下に添付してみます。


右手の方が高音域で和音を鳴らしているので目立ちやすいですが、こうやって見てみますと明らかに左手の方が広い音域をカヴァーしつつ、出してる音数も多い事が一目瞭然だと思います。
さらに、左手パートの例の「ダッダ~ダッ! ダッ! ダッ!」と言うリズム的な要素を判りやすく書きますと次のようになります。左手パートのみです
コレをみると「ダッ! ダッ!」の部分が、まず「シ♭」を弾いて、すかさず2オクターブ以上離れた「」を弾いた後に素早く1オクターブ以上戻って「」を弾いてやっと完了すると言う無茶苦茶な動きをこの高速テンポの中で行わなければならない事が判ります。
ココで一瞬の間が空くのもわからなくも無い気がします。

更にもう一つ、レビューで少し触れたこの【1:03の箇所】ですが、先に添付した楽譜には当該箇所に「♭」が付いていましたが、手持ちの全音版(古いブージー&ホークスのリプリントだと思います)には「♭」が書かれていません。詳しくは下に添付した楽譜を御覧下さい。




以上のような感じでブログを書いていくつもりです。
ちなみに、ヴェーベルンとブーレーズの曲には一切触れてませんが、曲自体に興味がなくて殆ど聴いてないのでスルーと言う方向で…(聴いてないものは書けませんので)。




       なにとぞ、宜しくお願いします。




採点
◆技巧=95~88
◆個性、アクの強さ=80
◆エポックメイキング度=100






最後に大事なお知らせ!(改)

上の画像をクリックするとアマゾンの商品ページへ行きますが、コレはCDのジャケット画像を合法的(?)に使用する為にやむを得ずアマゾン・アソシエイトからリンクを貼ったものです。ですので、このブログのリンクから飛んだページで直接購入された場合や、「来たついでだから」と言う事で、その状態のまま買い物を続行してアマゾン内で何らかの商品を購入された場合、アマゾンから私に多少のキックバックがあります(←らしいです)。
小銭を稼ぐのが目的でこのブログを開始した訳ではございませんので、万が一、ここで取り上げたCDに興味を持たれてアマゾンで購入される場合等は、お手数ですが一度アマゾンのサイトを出て再び入り直すなどした上で購入される事をお勧め致します。