2012年9月29日土曜日

雑記・その4 【スカルボ和音】

 今回は和音の話を。

 数あるピアノ独奏曲の中でも屈指の名曲であり、ピアノの難曲としても有名なラヴェル作曲の「夜のガスパール」の第三曲、「スカルボ」はこのブログを御覧になる方にはお馴染みの曲だと思います。

 そのスカルボの冒頭には「スカルボ和音」とも呼ばれる事もある(らしい)極めて強いインパクトを与える和音が登場します(この和音~)。その箇所の楽譜は以下の様になっています。
左右の両パートを纏めてシンプルに表記すると以下の様になります。


 この和音について、メシアンは『メシアンによるラヴェル楽曲分析』において次の様に述べています。

「属7の第三転回形の和音上に、内声の属音の保続音を伴っている」

つまり、「ドのダブルシャープ(Cisis)」を異名同音の「レ(D)」に読み替え、コードネームで言えば「E7」と解釈して、それに嬰ト短調の属音である「レ♯(Dis)」が付加された和音と考えたようです。


 森安芳樹さんが編集・校訂した春秋社版・ラヴェル作品集の演奏ノートによれば、

「ラヴェルはこの和音をベートーヴェンの『月光ソナタ』の第1楽章から思いついたという」

との事で、第16小節目の右手パートの楽譜を載せ(譜例・A )、
この小節の全ての音をまとめて和音化し(譜例・B)、
コレをそのまま長3度上に移して(ずらして)下に添付した左側の和音を載せています。



 さて、譜例・Aは「ホ短調・Ⅰの和音の二転」で(調号は嬰ハ短調ですけど)、つまり譜例・Bはその「ホ短調・Ⅰの和音の二転」に、”上方変位させた第4音”と”第6音”を付加した和音と言う事になります。
となると、譜例・Aを長3度ずらした「スカルボ和音」は、「嬰ト短調・Ⅰの和音」に”上方変位させた第4音”と”第6音”を付加した和音と見る事も出来ます。

 ラヴェル自身がこの「スカルボ和音」にどういう機能を持たせて曲中で用いたのかは分りませんが、メシアンの解釈では異名同音による読み替えが必要になって少し違和感はありますし、Ⅰの和音に基くものと考えるには余りに属7っぽい響きが強すぎます。

 個人的には、嬰ト短調の”Ⅴ度のⅤ度9根省下変1転”に第4音を付加した和音と解釈して差し支えないのではないかと思っておりまして、もっと言えば31小節目までは機能的に全てドッペル・ドミナント系の和音と捉えても構わないのではないかと思うんですが(重嬰へ音は倚音で、第6音上方変位と考えて)、


皆さんはいかがお考えでしょうか?