2011年10月14日金曜日

ポリーニ 【シューマン:交響的練習曲&アラベスク】

今回はポリーニの交響的練習曲ほか(品番:POCG1200)を取り上げます。










なお、「スタインウェイ・レジェンズ」と言う企画モノCD(2枚組)のポリーニ編はリンクを貼ったCDの収録曲が全てカバーされている上に価格もそちらの方が安かったはずですし、その他にもシューマン・ピアノ協奏曲とリンクを貼ったCDの全ての曲をカップリングさせたCDも安価であった筈ですので、色々とチェックしてみて下さい。

 収録曲
「交響的練習曲(遺作変奏を含む)」
「アラベスク」


まず交響的練習曲ですが、当盤では遺作変奏を練習曲・5と練習曲・6の間に全5曲、番号順で配置しています。
 
 主題は中間部のテンポがやや速くなりすぎと感じる事を除けば比較的ノーマルな演奏です。続く練習曲・1の0:08~【この1:30~】の箇所で早速ポリーニの悪癖である「ペダルの雑さによる音価(大雑把に言えば、音の長さ)の表現の甘さ」が顔を出しています。楽譜を見れば分るように、この箇所では冒頭からの「タッ、タッタラッ、タッ、タッ、タッ、タラララ」と言うリズムパターンが継続されなければならないわけですが、気を抜くのが早すぎと言うか何と言うか…。
 練習曲・2でも冒頭から細部の表現に甘さが見られます。この曲の横の流れをザックリ分けると「上声部」「中間部の和音」「バス」となりますが、一拍ずつ変化する中間部の和音の推移がいまいちハッキリしません(これはアムラン盤も似たような傾向です)。
 練習曲・3もアムラン盤と似たような傾向で、とにかく始終ペダル踏みまくっていて「とりあえず音は出してますが何か?」的な姿勢がモロに出た演奏です。おかげでキレも締りもないダラ~ッとした演奏になっています。
 練習曲・4でも最初こそ休符を意識してはいますが、曲が進むにつれてただ和音を叩くだけのいい加減な処理になっていき、後半はもうグダグダもいいところです。
 少し先へ進んで練習曲・6を見てみます。この曲は御存知の様に曲中でも屈指の派手な曲であり、速さとキレが重要なポイントとなる曲だと思いますが、ポリーニはやけにノンビリとしたテンポな上に(楽譜指定のテンポ自体も『=60』と結構遅いんですが)、今まで繰り返し指摘してきたペダル処理の雑さによってキレもヘッタクレも無い安全運転演奏になっています(にもかかわらず、0:33【この7:34辺り】で最低音を引っ掛けてたり…)。
 もし、ペトルーシュカやショパンのエチュードを録音していた時期の全盛期のポリーニならば、多少のペダルの雑さはあろうとも、もっとこの曲を颯爽と弾き切っていたと思うのは私だけではないのではないでしょうか?

 さて、これ以降もペダル処理の雑さが原因による中途半端な演奏は繰り広げられます。上記以外の一例をさらに挙げますと、いつもは音を切るべき所で伸ばしっぱなしにするにもかかわらず、伸ばさなければならない所で切ってしまっている例があって、具体的には練習曲・9の前半0:14【この10:48~】の箇所、ちょっと見づらいですが下の楽譜で囲っている「付点8分音符のド♯」の音なんですが、付点8分にも関わらず、ホンの一瞬しか鳴っていません(聴き取りにくい箇所ですが)。


 今まで見てきたような細部の詰めの甘さはこの録音のいたる所で見られます。ハッキリ言ってしまうと、競合盤のかなり多い”交響的練習曲”の録音の中では、「ポリーニ」と言う記号がなければ「その他大勢」の中に入りかねない様な凡庸な録音であると言っても言い過ぎではないと思います。
 そんな中で、あえて「このCDならでは!」と言う注目点を挙げるならば、楽譜に書かれている「音」をとりあえずはインテンポで無難に出している点(細部の精度や打鍵の粒の揃い方は完全に度外視してますけど…)と、初版を用いた録音である点と言えます。
 一般的に録音されている版と初版の大きな違いは終曲(練習曲・12)の3:11~3:51の箇所で、双方を聞き比べると一目瞭然(?)で判ると思います。ちなみに、言及箇所を明示するために貼ったリンク先の動画の演奏は、一般的に録音されてる版を用いており、上記で指摘した初版と違う箇所は【この箇所~16:47】にあたります。興味のある方はポリーニ盤と聴き比べてみて下さい。

 最後に、アラベスクに関してもあえて取り上げるほどの演奏では無いので割愛いたします。



【採点】
◆技巧=80.5
◆個性、アクの強さ=82
◆「録音するのが10数年遅かったなぁ」度=100