2013年4月4日木曜日

雑記・その10 【ペトルーシュカ和音】

 前回言いました様に、今回はいわゆるペトルーシュカ和音について書きたいと思います。

 「ペトルーシュカ和音」と言うからには、当然、ストラヴィンスキー作曲の『ペトルーシュカ』の曲中で使用されている和音な訳ですが、一番分かりやすい所で言えば、「ペトルーシュカからの3楽章」の第3楽章「謝肉祭」の一番最後に鳴らすあの和音がそうです(一応ですが、最も有名な録音と思われるポリーニ盤のCDタイムで言うと8:22の所で、派手なグリッサンドの後の「ダンッ!」と鳴らすアレです)。

 最初に言葉で「嬰ヘ長調のトニカが~・・・」などと説明すると却って分かりにくいですから、その部分の楽譜を作ったので下に添付します。
あらためて説明しますと、左手パートの嬰ヘ長調の主和音(トニカ)「ファ♯・ラ♯・ド♯」と、右手パートのハ長調の主和音「ド・ミ・ソ」を同時に鳴らす訳です。
ポピュラー系の表現で言うともっと簡単で、「C/F♯」と表せます(分母がバスの音名を表すタイプの表記法じゃなく、分母・分子ともにコードネームを表す「ポリコード」の表記法です)。


                                  以上です。


「え?これで説明終わり?」と言う方もいるかもしれませんが、これだけの事です。

”ペトルーシュカ和音”と言うネーミングがやたらと大仰と言うか、複雑怪奇な和音と言う印象を与えてしまいがちですが、案外わかり易いですよね。和音の響き自体は複雑怪奇ですが。

 ただ、上に添付した譜例の通りに弾いてみてもイマイチ響きが分かりにくいと思うので、もう少し響きが分かりやすい箇所をご紹介します。
先程と同じく「ペトルーシュカからの3楽章」の第2楽章「ペトルーシュカの部屋」の序盤、ポリーニ盤のCDタイムで言うと0:15辺りのアルペジオですが、
これもペトルーシュカ和音に基づいたアルペジオです(先程とは違って左手が「ラ♯・ド♯・ファ♯」、つまり一転の状態ですが)。何やらミステリアスな響きがしますよね。



 で、前回書いた「水の戯れ」とペトルーシュカ和音がどうリンクするかと言うと、春秋版の「ラヴェル全集・1」の演奏ノートにも書かれている通り(早い話、受け売りです)、本家の「ペトルーシュカ」が作曲されるより約10年も前に「水の戯れ」の中でペトルーシュカ和音が使われているって事に繋がる訳です。

 具体的にどこの事かと言うと、72小節目=ココからのアルペジオです。この部分の楽譜を見てみますと(クリックすれば大きな画像で見られます)、
この様に、「ファ♯・ラ♯・ド♯」と「ド・ミ・ソ・ド」が組み合わさって構成されたアルペジオになっています(所々で和音化している部分もありますが)。

「でもこれって、さっきのペトルーシュカの箇所の様な『二つの和音を完全に同時に鳴らす』のとは少し違うんじゃないの?」
と仰る方もいるかもしれませんが、響きとしては紛れも無くペトルーシュカ和音そのものと言えると思います。



 以上、ペトルーシュカ和音についてのお話でした。


 余談ですが、私が探した限り、この手の「近現代作品の和声」に関する情報や文章は書籍でもネット上でも極めて少ないような気がします。音大の諸先生方や知識をお持ちの方は色々な媒体でどんどん書いていって頂きたいですね。
池辺先生も出来れば「ストラヴィンスキーの音符たち」や「スクリャービンの音符たち」、「プロコフィエフの音符たち」などを書いて頂きたいものです。