2011年10月1日土曜日

ラーンキ 【ストラヴィンスキー&バルトーク作品集】

今回はデジュー・ラーンキのストラヴィンスキー&バルトーク作品集(Apex・0927409112)です。



 日本ではその昔、コチシュやシフと共に「ハンガリー三羽…、 ~ 等と言う情報はWikipediaにでも任せるとして、”ラーキン”と間違えやすい事でも有名(?)なラーンキですが、現時点での日本における知名度はシフやコチシュに大きく水をあけられている感もあります。しかし、単純にメカニックと言う観点から見てもシフを大きく上回り、コチシュに勝るとも劣らない様な高い能力を持っている奏者です。

収録曲
ストラヴィンスキー:ペトルーシュカからの3楽章
ストラヴィンスキー:Piano Rag Music
ストラヴィンスキー:Tango (1940) Tempo di Tango
ストラヴィンスキー:Serenade in A
ストラヴィンスキー:Sonata for piano
バルトーク:Suite Op.14
バルトーク:Im Freien Sz.81



 さて、冒頭の「ペトルーシュカからの3楽章」ですが、この演奏の目的・テーマは一聴すれば誰でも分かる(と思われる)程ハッキリしてます。それは、

「打倒、ポリーニ盤!」です。

このCDとポリーニ盤を奏者を明かさない状態で両方聴いてもらい「どちらがポリーニ盤でしょう?」と質問した場合、少なくない数の方が間違った回答をしまうんじゃないかと思うくらいに似てる訳です。で、いつもの様にポリーニ盤(以下、P盤)と比較して細かく見て行こうかと思うんですが、何せよく似ていて余り違いがないって言うのが本当の所だったりするんで困るんですが、気楽に見て行きたいと思います。

 聴き始めて最初に感じるのは双方ともに録音がやけにキンキンしている事で(どっちかって言うとラーンキの方がよりキンキンしてます)聴き疲れしやすいかもしれません。
 まずは冒頭から少し進んだ0:46~(P盤0:47~)の左手の素早い移動が特徴的な(って、この曲ではそんな箇所が多いんですけど…)箇所ですが、ここではラーンキの明瞭度が勝ります。しかし、1:01(P盤も1:01)~のクロスリズム的な箇所では明らかにP盤の方が明瞭に弾いています。その直後の左手の速いパッセージ1:14(P盤1:14~)の明瞭度はラーンキが上かなぁ、でも、それから少し先1:58あたり(P盤2:02あたり)の右手の前打音的な音はP盤の方がハッキリと出てる… 。
 この様に「この箇所はラーンキの方が良いけどあの箇所はP盤の方が良い」と言うパターンの繰り返しが多いんです。

 第二曲も同じ様な調子で、しいて違いを挙げればポリーニの杓子定規で不自然とも言える様なインテンポ感に比べて、ラーンキの方が若干自然であると言う程度です(と言っても似た様なものなんですが…)。

 第三曲、冒頭の重音の処理も似てますね。違いと言えば、判り易い所で言うともう少し先の2:30~2:37(P盤2:25~2:31)の半音階的な低音の動きのコントロールがラーンキよりP盤の方が上、でもP盤は最初の音を引っ掛け気味だし、楽譜を見てみるとラーンキの弾き方でも問題は無いかなぁ、って言う感じです(う~ん…)。
 他には、ちょっと判りにくいですが1:24~(P盤1:21~)の、左手・2&4指と3&5指で『ソ&シ♭⇔ラ&ド』とトリルをしながら1指で
レ ・ レ ・ ミ ・ ミ ・ レ ・ レ ・ フ ァ ・ フ ァ  ~…
と弾いていく箇所なんかはラーンキはかなり怪しいですし、かと言ってP盤もそれほど良い出来ではない訳です。ハッキリ言って、双方共にミスタッチ含みの(訂正・「パートごとに整理されていないのでミスタッチの様に聴こえる」が正しい表現ですね)たどたどしい弾き方をしてます。
 それから先も一長一短って言う感じで、クライマックスとも言える例の跳躍6:20~(P盤6:08)もP盤の方がペダル操作が精緻でラーンキより細部まで明瞭に聴こえる演奏ですが(ラーンキも聴こえますけど…)、スムーズさと言う観点で見ると、P盤の方が若干タドタドしい感じでラーンキに軍配が上がります(早い話、どっちもどっち)。


 全体的に見れば、機械的なインテンポ感が特徴のP盤、P盤よりは自然なテンポ感で、全体的に和音の歯切れが良いラーンキ盤と言う感じです。完成度は双方共に高く、上記で「細部の明瞭度が~」と比較していますが、あくまで「あのP盤と比較すると~」と言うレヴェルの話で、ラーンキ盤を聴いて下手だと思う人はまずいないと思います。

 例えば、「ポリーニ盤のペトルーシュカは好きだけど余りに聴きすぎたんで他も聴いてみたい。でも、ポリーニの演奏とかけ離れたものは聴きたくは無い」と言う方にはピッタリなCDかもしれません。


 あ、残りの収録曲は馴染みが無く、他と比較してないんで詳細は省略しますが、聴き手にそれらの曲に興味を抱かせるに足る演奏だとは思います。曲自体が魅力的なのかもしれませんけど。


採点
◆技巧=92~88
◆個性、アクの強さ=80
◆ポリーニ度=99