2012年12月24日月曜日

雑記・その7 【おすすめの複数枚組(2枚以上)商品やBOXセットの紹介・その2】

前回に続き、今回は
「おすすめの複数枚組(2枚以上)商品やBOXセットの紹介・その2」です。

なお前回も書きました様に、収録曲を詳細に書くと文章が長くなりすぎますので、興味を持たれた商品がありましたらH●VやT■w■r Re■ordsなどのサイトを適宜参照して下さい。
では早速参ります。


【ル・サージュ:シューマン・ピアノ独奏曲全集(13CD)】

既に御存知の方も多い商品だと思いますが、ル・サージュが以前からフランスの「Alpha」レーベルで録音してきたシューマンの独奏曲の演奏を一まとめにした「単品でコツコツと購入してきた皆さま、御愁傷様です」と思わずにはいられない極めて値引率の高い商品です。
 さて、この商品は「シューマン・ピアノ独奏曲全集」と謳ってはいるものの実は完全な全集ではなく、例えば、「子供のためのアルバム」の追加曲や、近年見つかったトッカータ・Op.7の初稿である「Exercice」などは含まれていません(トッカータの初稿についてはWikipedeaのシューマン・トッカータの頁を御覧下さい)。

 殆どの曲で及第点以上は弾けている上にかなりの熱演を聴かせている曲も少なくなく、この手の全集にありがちな「曲によるバラつき」が余り見られませんので『シューマンのピアノ曲のカタログ』としての価値は素晴らしく高いと言え、同じ目的でデムスの全集を購入されて「難曲であからさまに出来が悪くなると言うか、ハッキリ言って全然弾けてないな」とガッカリされた方もこれならまず大丈夫だと思います。

 全体的に速めのテンポを採用して颯爽と弾いているんですが、夢のもつれやピアノソナタ第3番の最終楽章やアベッグ変奏曲の第3変奏などの急速系の曲・楽章で「もう少し落ち着いて弾いた方が良いんじゃないの?」と感じる箇所も少なくなく、そう言う箇所では少々弾き飛ばし気味のせかせかとした演奏になる上に、シューマン特有の多声的な表現が二の次になる傾向があるようです(大雑把に言ってアムランと似た傾向)。特に多声的な表現の後退・欠如はシューマン作品の魅力を大幅に失わせるものでかなりのマイナス要素と言えます。

しかし、デムスの全集のようなレヴェルでの難曲・難所での明らかな指のもつれやテンポダウンはまず見られず、ル・サージュの実力の高さを伺えるものとなっています。

繰り返しになりますが、『シューマンのピアノ曲のカタログ』としての価値は高く、主要な曲はもちろん、「ベートーヴェンの主題による自由な変奏形式の練習曲」などの珍しい曲が収録されており、シューマンが好きな方であれば是非入手すべきBOXと言えるでしょう。ちなみに、この商品は紙ジャケ仕様です。


なお、ル・サージュにはこれ以前にRCAでシューマン作品集を録音していますが、

表現自体は余り変わらない様に思いますが、技巧的にはコチラの方がより整ったものになっています(僅かな差ですが)。




【ハフ:ピアノアルバム(2枚組)】

イギリスの俊英、スティーヴン・ハフによる余り録音されない珍しい小品を集めたアルパムです。一曲目(マクダウェルの作品)からハフの特徴である精妙な右手の鮮やかな急速パッセージがビシバシと決まっています。
ツェルニーの華麗な変奏曲(シューマンのアベック変奏曲のある変奏とソックリな変奏がある事にビックリ)からハフ本人による少し下品な、じゃなく豪華絢爛な編曲の「マイ・フェイヴァリット・シングス」まで選曲が幅広く、寄せ集め感と言うかまとまりに欠ける印象もありますが、そこを問題にしても仕方が無いと言うか、そう言うコンセプトだと割りきりる事が必要でしょう。

フリードマンの「オルゴール」やレヴィツキの「魅せられた妖精」などのやけに音数が多い曲もハフの技巧によってクリスマスシーズンのBGMとしても合いそうな位にお洒落に仕上がっていますし、モシュコフフキのスペイン奇想曲はもちろん、リーバーマンのような現代作品(と言っても、プロコフィエフがOKであれば問題なく聴ける曲だと思います)でもハフはその辣腕ぶりを遺憾なく発揮しています。

曲目を見れば分りますが、このCDは『有名曲の聴き比べ用アイテム』として価値は低いです。しかし、珍しい作品とハフの全方位的なポテンシャルの高さを知るには持って来いのものだと思います。

なお、録音年が全て同じCD1の中でも録音状態に結構バラつきがあって、録音の質にこだわる方には気になる点もしれません。


ちなみに、同じシリーズから2枚組のリスト作品集も出ているんですが、

メフィストワルツ第1番やスペイン狂詩曲、タランテラなども収録されていて、そちらも興味のある方は是非聴いてみてください。また、同じシリーズにはブラームスのピアノ協奏曲集もありますが、ハフにしてはいまいちの出来な気がします。しかし、興味のある方は聴いてみて下さい。




【カツァリス:ベートーヴェン/リスト編・交響曲全集(6CD)】

「年末と言えば第9」と言う事で取り上げました。ピアノ好きであれば聴くならもちろんリストによるピアノ独奏用編曲版ですよね。
カツァリスはリストが編曲したものに更なる音の追加を行っている事で有名ですが、「そんなのは楽譜を見ながら聴かなきゃ分からんぞ」って話だと思うので、リストが編曲したものをそのまま録音した全集もあわせて聴きたいものです。

そこで、ロシアの実力派である
【シチェルバコフ:ベートーヴェン/リスト編・交響曲全集(5CD)】です。


 第9番の第一楽章を聴き比べてみるとカツァリスは冒頭近くから低音を随時補強したりしているのが分かりますし、他にも分かりやすい所では楽章の最後、シチェルバコフは通常のヴァージョンを弾いていますが、カツァリスはOssiaの方を弾いています。

聴き比べしているとその他にも第一楽章の終盤でシチェルバコフがトリルの指示を見落としている事(12:44など)も気付くと思います。

 第9番以外の曲でもカツァリスは音符の追加などを行っていて、例えば、繰り返しの指示がある箇所で初回は通常通りに弾き、繰り返し時は音の追加やOssiaのある場合はそちらを弾いたりする等しています(場合によってはOssiaにも音を付け加えています)。

カツァリスの場合、第8番・最終楽章の三連符の再現などは音の追加・演奏ともに少しやり過ぎな感がありつつも、オリジナル(もちろんベートーヴェンの原曲の方です)の再現にかける熱意は感じられますし、いつも通りの内声浮かし等ももちろん健在で、多声的な表現の上手さも相変わらずです。
シチェルバコフはカツァリスに比べて大人しい印象ですがケレン味のない端正・堅実な演奏で、全体的に速めのテンポながらも明らかな破綻・誤魔化しはまず見られません。リファレンス盤として重宝する事は間違いなく、リスト編のオリジナル(?)全集としての価値は計り知れないと思います。ただ、一つだけ大きな欠点があって、単品で販売している商品(つまり、プラスチックケースに入っている状態)をそのまま5つ纏めただけの商品なのでかなりかさ張り、前述のル・サージュのシューマン全集より一㎝以上も厚みがあります。
ちなみに、カツァリスの方は一枚用のプラスチックケースを二枚貼り重ねた様なアレに入っています。


シチェルバコフとカツァリスとの聴き比べだけでも楽しめると思いますし、第5番と第6番はグールドのかなり癖がある録音もありますので、それとの比較も面白いでしょう。もちろん、オリジナルのオーケストラ演奏との比較も面白いと思います。

なお、これらの曲の楽譜はIMSLPでも見られますし、Doverからリプリントの安い楽譜も出ています(左側のリンクが1~5番、右側のリンクが6~9番です)。


 音源と楽譜を入手して、カツァリスが追加した音を全て詳細に指摘してサイトやブログに載せる奇特な方はいらっしゃいませんか?







記事が長くなりましたので今回はここまでです。引き続き、数日中に第三弾をやろうと思います。