2011年9月27日火曜日

シュミット=レオナルディ 【シューマン:交響的練習曲、謝肉祭、トッカータ、他】

今回はウォルフラム・シュミット=レオナルディのシューマン作品集2枚組(Brilliant Classics・BRL93772)です。



収録曲
CD・1
謝肉祭 op.9
4つの夜曲 op.23
トッカータ op.7
4つのピアノ曲 op.32
プレスト・パッショナート
CD・2
アベッグ変奏曲 op.1
6つの間奏曲 op.4
交響的練習曲 op.13

 まずはレオナルディについてですが、1967年生まれのドイツの奏者で、廉価盤レーベルとして知られる「ブリリアント・クラシックス」からここで取り上げるシューマン作品集を含む数枚のCDをリリースしています。演奏は基本的に堅実路線ですが、ポリフォニックな表現の上手さと透明感のあるやや硬めの音色が印象的です。


 「謝肉祭」は冒頭の「Préambule(前口上)」からこちらで紹介したガヴリーロフ盤と比較するとコンパクトで穏当な表現です(ガヴリーロフ盤が迫力あり過ぎだって事もありますけど)。
 2曲目以降も丁寧に進んでいきますが何の特徴も無いかと言うとそうでもなく、例えば「Eusebius(オイゼビウス)」の1:01~【この0:57~】の右手パートの内声の動き「ミ♭→ソ→ミ♭→レ→ミ♭」の強調は単調になりがちなこの曲においてアクセントになっています。このような要所要所における内声の処理の工夫は聴く人によっては「小手先」と言う印象を受けるもしれませんが、ここで見られるような多声部の処理能力は、例えば「Reconnaissance(感謝)」の中間部、ロ長調に転調した部分0:36~【この0:25~】の上声部とバスの掛け合い部分で力を発揮しているます。
なお、この技術は「謝肉祭」に限らず全ての曲において重要な役割を担っている彼の特徴的なものであり、その効果が最も発揮されているのが「交響的練習曲」ですが、それはまた後ほど。
 ちなみに、レオナルディは「スフィンクス」を演奏しており、遅めのテンポを採用しスタッカートな音で区切りつつ一分以上かけて演奏しています。No.3の音形では1オクターブ下の音も付加しているようです。

 続く「4つの夜曲」および「4つのピアノ曲」「プレスト・パッショナート」「6つの間奏曲」は個人的にそれほど馴染みが無いですが、手堅く纏めているように感じます。

 シューマンのピアノ作品の中でも屈指の難曲と言われる「トッカータ」では、おそらく手の大きさによると思われる理由で左手の10度音程の箇所0:08辺りなど【この0:10~0:11辺りなど。ちなみに、リンク先の演奏も苦しそうです】
などで若干苦しさが見られますがそれ以外では大きな破綻はなく、展開部3:36~【この辺り~。登場が早いのは提示部の繰り返しを省略しているため】での見せ場であるオクターブ連打の処理も水準以上でしょう。ただ、他の多くの奏者と同じ様に、そのオクターブが終った直後にある各声部へ次々に同音連打を含む音形が現れながら四声で進行する箇所4:04~【この2:13~】ではテンポが若干遅くなったり、第二主題・0:46~等【この箇所~等】でテンポを落として大らかに歌う表現は、例えばポゴレリチの演奏を基準としてこの曲を聴く方には不満があるかもしれません(ポゴレリチの演奏が異端であるとも言えますが)。

 CD2の「アベッグ変奏曲」は素晴らしい出来で、特に、右手の速いパッセージが特徴的な第3変奏【この変奏】での若干スタッカート気味な硬質でハッキリとした打鍵による小気味の良い演奏は一聴の価値ありです。


 最後は交響的練習曲です。この曲は変奏曲形式による曲ですが(主題に関係ない曲も入ってますけど)、大抵の奏者が演奏の際にこの曲の持つ変奏曲としての面白さと名人的な技巧を要する曲としての面白さのバランスをとるのに苦労しています。そんな中、レオナルディは前者の「変奏曲の面白さ」を基本に演奏しているようです。
 さて、この録音は遺作変奏(以下、遺変。練習曲は「練」と略します)も含んでいて、曲順ですが

主題→練1→遺変一→練2→練3→練4→練5→遺変四→練6→練7→遺変二→遺変五→練8→練9→遺変三→練10→練11→練12(終曲)

以上の様に配置されています。

 まず主題ですが、大らかに歌い上げるような演奏をする奏者が多い中、比較的速めのテンポで弾いています。
「練1」【この曲】では前述した彼お得意の内声の強調は殆ど見られませんが、次の「遺変一」(残念ながらこの曲の音源はピティナにありませんでした)の繰り返し時において判りやすい形でそれらは現れます。
 この「遺変一」は前半部分と後半部分に分かれておりそれぞれ一回ずつの繰り返しが指定されていますが、前半・一度目0:00~で余り聴かれなかった右手・最低音の横の線、楽譜の赤で示したライン
が前半・二度目0:26~では強調して表現されています(ここを強調する事自体は珍しくないですが)。同じ様に後半でも一度目0:53~では控えめに弾かれていた左手(後半の後半?では右手ですが)・最低音の横の線が、後半・繰り返し時1:20~では明確に強調されています。なお、これ以降の曲でも工夫を凝らした声部の強調が随所で見られます。

 このような「繰り返し時に初回と違うパート・声部を強調する」と言う行為は珍しい事ではありませんが、レオナルディのそれらの表現の上手さは注目に値するレヴェルで、多声的なピアノ書法で書かれたこの曲とは相性が良くその面白さを引き出しています。

 ちなみに、基本的には堅実な演奏をする奏者ではありますが決して下手だと言う訳ではなく、例えば、かなりのテクニシャンでも苦労の跡が見られる事の多い「練6」【この曲】においても、速めのテンポにもかかわらず後半の繰り返し時【この演奏は繰り返ししていませんが、後半はこの箇所~】に内声の操作を行う余裕を見せています(正直言うと、この曲ではさすがにやらないと思っていたので最初聴いた時はビックリしました)。


 堅実なテクニックを持った頭脳派のレオナルディが丁寧に仕上げたシューマン作品集。興味のある方はぜひ聴いてみて下さい。
最後に、彼のサイトにはここで紹介したCDのものを含む色々な音源があるので(ライヴでの「ペトルーシュカからの3章」全曲の全音源もあります)、興味のある方は

http://www.schmitt-leonardy.com
で検索して彼のサイトへ行ってみてください。


【採点】
◆技巧=88
◆個性、アクの強さ=70
◆クレバー度=95