2012年1月27日金曜日

ベレゾフスキー 【ショパン:練習曲、作品10&25】



 1990年のチャイコフスキー・コンクールの覇者であるベレゾフスキーが、その翌年の1991年に録音したショパンの練習曲集です(『3つの新しい練習曲』を含む)。

では、急速系の曲を中心に少し見て行きたいと思います。

◆10-1
 楽譜に書かれた音を発音させると言う意味では悪くない出来ですが、曲中やフレーズの中での強弱の変化が余り無い事が耳につきます。冒頭からしばらくの間ほぼ強弱の変化が無い状態が続き、0:37【この0:35~】で少し弱めに弾いてから徐々に元に戻して行って、0:54【この0:52~】で今度はかなり極端な弱音で演奏してから再び「cresc.」して行って1:11【この箇所~】の再現部へ突入する訳ですが、再現部以降は目立った強弱の変化は無く、曲の最終盤ですらほぼ強弱変化の無い状態で終了します。一般的には、例えば、コーダが始まる箇所1:38(先程の音源で1:39)の周辺から少し音量を落として弾きますがベレゾフスキーはほぼ一定の強さで演奏しています。大雑把に言うとポリーニ系の演奏ではあるんですが、ポリーニのようなインテンポ感や突出したメカニック(任意の鍵盤を正確にヒットする打鍵能力)は感じられません。特にテンポ・リズムに関してはかなり癖がある部類の演奏と言えると思います。
あと、曲が進むにつれ左手の打鍵が少々乱暴になって行くのも気になります。

◆10-2
 手抜きと言われても仕方ないくらいの演奏です。半音階をレガートに弾く為にペダルを多用した結果、2小節目から早くも左手パートのスタッカートの指示を守れていない上に、
右手の内声の和音や左手パートのコントロールも覚束ない状態になっています。一番目立つパートの半音階のメロディを滑らかに弾く為のやむを得ない措置とは言え、余りにお粗末な演奏と言えます(しかも、その半音階すら確実にコントロールしているとは言い難いんですが)。

◆10-4
 かなり遅いテンポで演奏されます。言うまでもありませんが、ただ単にテンポが速ければ良いってものでもありませんし、たとえテンポが遅くても、グールドやプレトニョフのように細部への異常な拘り等、テンポの遅さを補って余りあるだけの何かがあれば良いんですが、この演奏にはその遅さに見合った何かを聴く事はできません。
 どうやらテンポの遅さに合わせて打鍵自体のスピードも遅くしているようで、この曲のキモとも言える速い単音のフレーズにキレが殆ど感じられず、ノッペリとして鈍重な表現になってます。

◆10-8
 冒頭は左手が多少乱暴であるものの、それほど悪い出来ではありません(これまでが悪かったのでそう感じられるのかも)。最初のセクションの反復と言える0:19~【この箇所~】からはそれまでよりもかなり極端に弱めの演奏をして変化をつけています。が、中間部・0:39~【この箇所~】が突然の意味不明な強打で始まり、その後もしばらくはかなり大味な演奏(アルペジオの精度も含め)が続いて行きます。
 全体的には強弱の差が激しいものの、それらの必然性や根拠がいまいち感じられず、たんに奇を衒った演奏をしているだけのように感じます。

◆25-6
 この曲は10-4ほど遅いテンポは採用していません(テンポの揺れは激しいです)が、とにかくペダルが過剰な箇所が多く、それ故に曲全体の響きが鈍重になっています。特に順次下降の部分【この箇所や0:23~など】になると常にペダルが過剰になる上にテンポも目に見えて?遅くなり、特にこの曲で最も長い順次下降の箇所=1:29~【この箇所~】ではいかにも「ルバートをかけています」と言いたげな感じでテンポを遅くしてお茶を濁しています。
私は「何が何でもインテンポを死守すべき」と言うスタンスではないんですが(例えばアムランの様に「インテンポだけど細部が雑」では意味が無いですし)、この演奏はどう聴いても、まともに弾けないのでテンポを揺らして誤魔化している様にしか聴こえません。

 全体的に見ても明らかに指がもつれている箇所が散見され(先程の動画の【この箇所】など)、ハッキリ言ってプロの演奏とは思えない出来です。

◆25-11
 25-6と同様に、とてもプロとは思えない演奏です。このブログでは「どこが良くてどこが悪いか、具体的な箇所を誰にでも分かるように明示する」と言う事をモットー(と言うほど大した事ではありませんけど)にしているんですが、この演奏は

「マトモに弾けてるといえるのは序奏くらいで、後はとにかく駄目」

としか言い様のない出来です。
右手につられて左手が疎かになったり(その逆も)、3:08【この箇所~。リンク先もかなり怪しいですけど】に代表されるように明らかに指がもつれてしまっている箇所もあります。



 さて、かなり駆け足で見てきましたが、このCDを全体的に見ると、10-1や25-12の様にそれなりに見るべき点のある演奏があって長所が皆無と言う訳ではありませんが、とにかく欠点(メカニックの点や曲全体の構成を含む)が極めて多いものである事は紛れも無い事実です。
ここでは取り上げませんでしたが、緩徐系の曲も癖のある演奏ばかりで「とにかく何か個性を出してやろう」という姿勢しか見えてこないものばかりです(それでもメカニックが優れていれば多少の救いにもなるんですが、それも無いのがつらい所)。


色んな意味で珍しい演奏がお好きな方を除き、絶対にお勧めできません。






【採点】
◆技巧=80~45(平均は贔屓目に見ても70くらい)
◆個性、アクの強さ=100
◆「よくコレを世に出したなぁ」度=300